
「歯列矯正に保険は使えるの?」「噛み合わせが悪い場合は保険適用になる?」と疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。
歯列矯正は原則として保険適用外ですが、厚生労働大臣が定める疾患や、外科手術が必要な顎変形症などでは保険が適用されるケースがあります。
また、2026年度の診療報酬改定では、18歳未満で連続する3歯以上の先天性欠如歯に起因した噛み合わせの異常も、保険適用の対象に追加されました。
この記事では、歯列矯正で保険が適用される4つのケースをはじめ、保険適用外となる歯並びの例、矯正費用の目安や負担を軽減する方法について解説します。
歯列矯正は原則として保険適用外

歯列矯正は原則として自由診療となり、治療費は全額自己負担です。
また、噛みにくさや見た目の悩みがあるからといって、必ず保険が適用されるわけではありません。
ただし、厚生労働大臣が定める疾患に起因する噛み合わせの異常や、外科手術が必要な顎変形症などでは、例外的に保険診療が認められています。
保険適用の可否は、歯並びの状態だけでなく、原因となる疾患や治療内容などによって判断される仕組みです。
さらに、保険適用の矯正治療は、所定の施設基準を満たし、地方厚生局に届け出た医療機関で受ける必要があります。
そのため、保険適用を希望する場合は、自分の症状が対象となるかに加えて、受診先が保険診療に対応しているかも確認しておきましょう。
参考:日本矯正歯科学会|矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは
参考:厚生労働省|保険診療の理解のために【歯科】(令和8年度)
歯列矯正で保険が適用される4つのケース

歯列矯正で保険が適用されるのは、厚生労働省が定める条件に該当する場合です。
2026年度の制度では、主に以下の4つのケースが対象となっています。
| ケース | 主な条件 |
|---|---|
| 厚生労働大臣が定める疾患による噛み合わせの異常 | 対象疾患に起因する咬合異常がある |
| 顎変形症で外科手術が必要な場合 | あごの骨を移動させる手術などを伴う矯正治療が必要 |
| 前歯・小臼歯の永久歯が3歯以上萌出不全 | 対象となる永久歯の萌出不全に起因する咬合異常があり、埋伏歯開窓術が必要 |
| 18歳未満で連続する3歯以上の先天性欠如歯がある場合 | 先天的に連続する3歯以上が欠如し、それに起因した咬合異常がある |
ただし、上記に該当する場合でも、実際の保険適用には歯科医師による診断が必要です。
参考:厚生労働省|保険診療の理解のために【歯科】(令和8年度)
厚生労働大臣が定める疾患による噛み合わせの異常
厚生労働大臣が定める疾患によって噛み合わせに異常が生じている場合、歯列矯正が保険適用となることがあります。
対象疾患の例は、以下のとおりです。
- 唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)
- ダウン症候群
- 鎖骨頭蓋骨異形成
- トリーチャ・コリンズ症候群[a]
- 6歯以上の先天性部分無歯症
- 原発性低リン血症性くる病
これらは対象疾患の一部です。2026年度には、原発性低リン血症性くる病やロイス・ディーツ症候群なども新たに追加されました。ただし、対象となる疾患があるだけで、必ず保険が適用されるわけではありません。
重要なのは、対象疾患に起因して噛み合わせに異常が生じ、歯列矯正が必要と判断されることです。疾患や症状によっては、ほかの診療科との連携が必要になる場合もあるため、医療機関で適切な診断を受けましょう。
顎変形症で外科手術が必要な場合
顎変形症とは、上下のあごの大きさや位置、形などの骨格的な問題によって、噛み合わせに異常が生じている状態です。
骨格性の受け口や上下のあごの位置に大きなずれがある場合は、歯列矯正だけでは噛み合わせを十分に整えられないことがあります。その際の選択肢となるのが、あごの骨を移動させる外科手術と歯列矯正を組み合わせた治療です。
保険適用となるのは、顎離断などの手術が必要な顎変形症に対し、手術前後に行う矯正治療です。そのため、顎変形症と診断されても、外科手術を伴わない歯列矯正では保険適用にならない場合があります。
手術の必要性や治療方針は症例によって異なるため、歯科医師による診断をしてもらいましょう。
前歯・小臼歯の永久歯が3本以上生えず、埋伏歯開窓術が必要な場合
3歯以上の永久歯萌出不全(えいきゅうしほうしゅつふぜん)によって噛み合わせに異常が生じている場合も、保険適用となる可能性があります。
永久歯萌出不全とは、本来生えてくるはずの永久歯が、何らかの原因で正常に生えてこない状態です。
あごの骨や歯ぐきの中に埋まったままになっている歯は、埋伏歯(まいふくし)と呼ばれます。このような歯に対して行われる処置の一つが、埋伏歯開窓術(まいふくしかいそうじゅつ)です。
埋伏歯開窓術では、歯ぐきなどを切開して埋まっている歯の一部を露出させ、矯正装置などを使って適切な位置へ誘導できるようにします。
保険適用となるのは、前歯および小臼歯の永久歯のうち3歯以上に萌出不全があり、それに起因する噛み合わせの異常に対して埋伏歯開窓術が必要な場合です。
単に永久歯が生えてくるのが遅いという理由だけでは、保険適用の条件を満たすとは限りません。
18歳未満で連続する3歯以上の先天性欠如歯がある場合
2026年度の診療報酬改定では、18歳未満で連続する3歯以上の先天性欠如歯に起因した噛み合わせの異常も、保険適用の対象に追加されました。
先天性欠如歯とは、生まれつき永久歯のもととなる歯胚が形成されず、本来生えてくるはずの歯が存在しない状態です。
永久歯が欠如していると、歯と歯の間に隙間が生じたり、隣の歯が移動したりすることで、噛み合わせに影響する場合があります。
ただし、永久歯が3本以上欠如していれば、必ず保険が適用されるわけではありません。
この規定では、18歳未満であることに加え、欠如している歯が連続する3歯以上であり、それに起因する噛み合わせの異常が認められることが条件です。
対象となる可能性がある場合は、歯科医師に保険適用の可否を相談しましょう。
参考:日本矯正歯科学会|矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは
参考:厚生労働省|保険診療の理解のために【歯科】(令和8年度)
保険適用にならない歯並びの例

出っ歯や受け口、八重歯、すきっ歯などは、歯列矯正が検討される代表的な歯並びです。
しかし、これらの症状があるだけでは、原則として保険適用の対象にはなりません。ここでは、一般的に自由診療となる歯並びの例を紹介します。
出っ歯・受け口
出っ歯や受け口は、歯の位置やあごの骨格などが関係して生じる噛み合わせの異常です。
出っ歯は上の前歯が前方に突出している状態、受け口は下の前歯が上の前歯より前方に位置している状態です。
これらの歯並びを改善するための歯列矯正は通常では自由診療となります。
ただし、骨格的なずれが大きく、外科手術が必要な顎変形症と診断された場合は、手術前後の矯正治療が保険適用となる可能性もあるため、注意が必要です。
出っ歯や受け口という見た目だけで、保険適用の可否を判断することはできません。
歯並びのガタガタ・八重歯
歯並びがガタガタしている状態は、叢生(そうせい)と呼ばれます。歯が並ぶためのスペースが不足し、歯が重なったり、ねじれたりしている状態です。
また、犬歯が歯列から外れた位置に生えている状態は、一般的に八重歯と呼ばれます。
こうした歯並びを整える矯正治療は、原則として自由診療です。
歯磨きがしにくい、歯と歯の間に汚れがたまりやすいといった悩みがあっても、それだけで保険診療の対象になるわけではありません。
ただし、対象となる疾患などが関係している場合は、保険適用の条件に該当するか確認が必要です。
すきっ歯・軽度の噛み合わせの乱れ
すきっ歯は、歯と歯の間に隙間がある状態です。
また、前歯の軽い傾きや噛み合わせのずれなども、歯列矯正によって改善を目指すことがあります。
こうした歯並びの乱れを整える治療は、原則として自由診療です。ただし、厚生労働大臣が定める疾患などに起因する噛み合わせの異常がある場合は、保険適用の対象となることもあります。
歯列矯正の保険適用は大人と子どもで違う?

歯列矯正の保険適用は、大人と子どもで基本的な判断基準が大きく異なるわけではありません。
年齢にかかわらず、厚生労働大臣が定める疾患や、手術が必要な顎変形症など、保険適用の条件を満たしているかどうかが重要です。
子どもの歯列矯正だからといって必ず保険が使えるわけではなく、大人でも対象となる疾患などがあれば保険適用となる場合があります。
ただし、2026年度から対象となった「連続する3歯以上の先天性欠如歯に起因した咬合異常」については、18歳未満という年齢条件がある点に注意が必要です。
年齢制限がある条件と、年齢だけでは対象が限定されない条件があることを理解しておきましょう。
保険適用で歯列矯正を受けるための条件と流れ

保険適用で歯列矯正を受けるには、症状が対象となるだけでなく、医療機関についても条件を満たす必要があります。
保険診療による矯正治療に対応できるのは、所定の施設基準に適合し、地方厚生局に届け出た医療機関です。
一般的な受診の流れは以下のとおりです。
1. 歯科医院で相談する
歯並びや噛み合わせの状態を確認し、保険適用の対象となる疾患が疑われるかなどを相談します。
2.必要な検査・診断を受ける
口腔内の診察や画像検査などを通じて、保険適用の条件に該当するかを判断します。
3. 対応する医療機関で治療方針を決める
必要に応じて保険診療に対応した医療機関を受診し、治療内容や期間、費用について説明を受けます。
4.治療を開始する
治療計画に同意したうえで、歯列矯正や必要な外科治療を進めます。
なお、保険が適用される場合でも、治療費が無料になるわけではありません。
公的医療保険では、原則として義務教育就学前は2割、就学後から70歳未満は3割など、年齢や所得に応じた自己負担割合が定められています。
実際の負担額は、治療内容や通院回数、年齢などによって異なるため、治療前の確認が必要です。
自治体の医療費助成制度などを利用できる場合もあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
参考:日本矯正歯科学会|矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは
保険適用外の歯列矯正にかかる費用の目安

保険適用外の歯列矯正は自由診療となるため、治療費は全額自己負担です。
日本矯正歯科学会によると、歯の表側に装置を付ける一般的な矯正治療では、初診から保定期間の通院まで含めて約80万〜120万円が費用の目安とされています。
一方、日本臨床矯正歯科医会が公表している矯正方法別の費用は、以下のとおりです。
| 矯正方法 | 費用の目安 |
|---|---|
| 表側ワイヤー矯正 | 約70万〜120万円 |
| 裏側ワイヤー矯正 | 約100万〜180万円 |
| マウスピース矯正 | 約90万〜120万円 |
※上記は日本臨床矯正歯科医会が公表した、調整料を含む費用の目安です。日本矯正歯科学会が示す総額とは、含まれる費用項目が異なる場合があります。
実際の費用は、歯並びの状態や治療範囲、歯科医院の料金体系などによって一律ではありません。
検査料や保定装置の費用などが別途必要になる場合もあるため、治療前に総額を確認しておきましょう。
参考:日本臨床矯正歯科医会|10〜20代の半数が“審美目的”で矯正歯科治療を検討 SNS主導の情報と料金・期間の認識ギャップが明らかに(2025年11月公表)
保険適用外の矯正費用に活用できる制度・支払い方法

保険適用外の歯列矯正では、治療費が高額になることもあるため、支払い方法を含めた資金計画が重要です。
医療費控除によって税負担を軽減できる場合があるほか、デンタルローンを利用して治療費を分割で支払う方法もあります。
医療費控除を活用する
歯列矯正が保険適用外であっても、医療費控除の対象となる場合があります。
医療費控除とは、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得控除を受けられる制度です。
医療費控除額は、原則として実際に支払った医療費から保険金などで補てんされた金額と10万円を差し引いて計算します。ただし、総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円に代えて総所得金額等の5%を差し引く仕組みです。
国税庁では、歯列矯正を受ける人の年齢や治療目的などから、歯列矯正が必要と認められる場合は、医療費控除の対象になるとしています。
代表的なのは、子どもの成長を妨げないために行う噛み合わせの治療です。
一方で、見た目を美しくすることだけを目的とした歯列矯正は、医療費控除の対象になりません。
医療費控除を受けるには、原則として確定申告が必要です。治療費の領収書や通院にかかった交通費の記録なども保管しておきましょう。
デンタルローンや分割払いを検討する
歯列矯正の費用を一度に支払うのが難しい場合は、デンタルローンや分割払いを検討する方法もあります。
デンタルローンは、歯科治療費を信販会社などが立て替え、患者が分割して返済する仕組みです。治療費を複数回に分けて支払えるため、一度にまとまった費用を用意する負担を抑えられます。ただし利用には審査があり、金利や手数料が発生する場合もあるため注意が必要です。
また、国税庁によると、医療費控除の対象となる治療費をデンタルローンで支払った場合でも、金利や手数料相当分は医療費控除の対象になりません。
利用する際は、毎月の返済額だけでなく、支払総額も確認しておきましょう。
自分の歯並びに合った治療方法を選ぶ
歯列矯正の費用を検討する際は、自分の歯並びや噛み合わせに合った治療方法を選ぶことも重要です。
歯列矯正にはワイヤー矯正やマウスピース矯正などの方法があり、使用する装置や治療範囲によって費用が異なります。一部の前歯に軽度の歯並びの乱れがある場合は、部分矯正も選択肢の一つです。
ただし、部分矯正はすべての症例に適しているわけではありません。噛み合わせ全体に問題がある場合などは、全体矯正が必要になることもあります。
費用の安さだけで治療方法を決めるのではなく、歯並びや噛み合わせの状態、治療後の安定性まで考慮した判断が必要です。
治療前には複数の選択肢について説明を受け、それぞれの費用やメリット・デメリットを比較しておきましょう。
歯列矯正と保険適用に関するよくある質問

歯列矯正の保険適用については、噛み合わせの状態や年齢、治療方法などによって疑問を持つ方も少なくありません。
ここでは、歯列矯正と保険に関するよくある質問に回答します。
Q. 歯並びが悪くて噛みにくい場合は保険が使えますか?
歯並びが悪く、食べ物を噛みにくい場合でも、それだけで保険適用になるわけではありません。
歯列矯正で保険が使えるのは、厚生労働大臣が定める疾患に起因する噛み合わせの異常や、外科手術が必要な顎変形症など、一定の条件を満たす場合です。
噛みにくさがあっても、対象となる疾患などが認められなければ自由診療となります。
ただし、噛み合わせの異常が骨格や疾患と関係している可能性もあるため、症状が気になる場合は歯科医院で相談してみましょう。
参考:日本矯正歯科学会|矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは
Q. マウスピース矯正や部分矯正にも保険は適用されますか?
一般的なマウスピース矯正や部分矯正は、原則として保険適用外です。
ただし、保険適用の可否は装置の種類だけで決まるものではありません。対象となる疾患や噛み合わせの状態、治療内容などによって判断されます。
また、保険診療で使用できる矯正装置や材料には一定の条件があるため、希望する装置を自由に選べるとは限りません。
保険適用で受けられる治療方法については、対応する医療機関で確認しておきましょう。
Q. 子どもの歯列矯正にも保険は適用されますか?
子どもの歯列矯正でも、一定の条件を満たせば保険適用となる場合があります。
たとえば、厚生労働大臣が定める疾患に起因する噛み合わせの異常や、3歯以上の永久歯萌出不全などが対象です。
2026年度からは18歳未満で連続する3歯以上の先天性欠如歯に起因する咬合異常も対象に追加されました。
一方で、一般的な出っ歯や八重歯、歯並びのガタつきなどを整える小児矯正は、原則として自由診療となります。
子どもだから保険が適用されるというわけではなく、原因や症状に応じた診断が必要です。
Q. 民間の医療保険で歯列矯正の費用は補償されますか?
民間の医療保険で歯列矯正の費用が補償されるかどうかは、加入している保険商品の保障内容によって異なります。
歯並びの改善を目的とした矯正治療は通常、入院給付金や手術給付金の対象外です。顎変形症などの治療で外科手術や入院が必要になった場合は、契約内容によって給付金の対象となる可能性があります。
ただし、公的医療保険の対象となる手術であっても、民間の医療保険から必ず給付金が支払われるわけではありません。
保険会社によっては、歯科治療に伴う一部の手術を給付金の対象外としている場合もあります。
補償の可否を確認したい場合は、加入している保険会社に治療名や手術名を伝え、契約内容に基づいて確認しましょう。
歯列矯正の費用や治療方法が気になる方は、まず歯科医師に相談を

歯列矯正は原則として保険適用外ですが、特定の疾患や顎変形症など、条件を満たす場合は保険が使えることがあります。
ただし、保険適用の可否は歯並びの見た目だけで判断できるものではなく、疾患や噛み合わせの状態、必要な治療内容などを踏まえた診断が必要です。
自由診療となる場合でも、医療費控除や分割払いなどを利用できるケースもあるため、費用面も含めた検討が重要です。
歯並びや噛み合わせに悩んでいる方は、まず歯科医師に相談し、自分に合った治療方法や費用について確認してみましょう。
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